葬儀社が押さえておきたい グリーフケアの基本
家族を失った遺族の心に、 そっと寄り添うということ
葬儀とは、大切な人との別れをかたちにする儀式である。しかし、式が終わったその瞬間から、遺族の心には深い喪失感と静かな孤独が訪れる。
かつては近所や親戚と自然に悲しみを分かち合えた時代もあったが、現代ではめっきり少なくなり、感情を抱え込む人が増えている。だからこそ今、葬儀社にできることは、形式の裏にある“人の心”に寄り添う姿勢を持つことではないだろうか。
グリーフケアにおいて、最も大切なのは「傾聴」である。ただ話を聞くのではなく、評価も助言もせず、相手の気持ちに寄り添いながら、黙ってそばにいるような姿勢が求められる。ときに涙を流しながら語る遺族の言葉を、遮ることなく受け止める。その静かな支援の積み重ねが、心の整理を手助けする力となる。
人は喪失を受け入れるまでに、さまざまな段階をたどる。混乱や怒り、後悔、抑うつ、そして少しずつの受容へ。そうした感情の波を理解していれば、遺族の複雑な反応にも戸惑うことなく接することができる。葬儀に携わるスタッフが悲嘆のプロセスを知ることは、悲しみに寄り添うための基本である。
儀式の意味を、ていねいに伝えるという役割に
「火葬だけで良い」「簡単に済ませたい」と言われることもある昨今だが、形式を縮めることと、心の整理を省略することは別である。葬儀には、悲しみを言葉にし、別れを実感し、区切りをつけるという大切な意味がある。その意義をていねいに伝えることも、葬儀社にできるグリーフケアのひとつと言える。
式が終わると、遺族は日常に戻らなければならない。しかし、戻る先が静かであるほど、喪失感は深くなる。そのときにふと届く、葬儀社からの連絡や季節の挨拶が、大きな支えとなることがある。決して大げさなことではない。思い出を大切にする時間や、語り合える場所の情報を届けるなど、さりげないアフターケアの工夫が、遺族の心を温め、葬儀社の価値向上へとつながっていく。
葬儀社にとってのグリーフケアとは、まさにその姿勢を大切にする営みである。葬送の仕事は、人生の終わりに関わるだけでなく、“これからの時間を生きる人”に寄り添う仕事でもあるのだ。