【地域に根ざす葬儀社のブランドづくり】空き家問題への対応を“ 信頼の証” に
近年、相続や高齢化に伴い、「空き家問題」が深刻化している。その背景には、亡くなった後に住まいをどうするかという“死後の暮らし”への準備不足があるという。このような課題に対し、終活や相続の相談窓口として地域に根ざしてきた葬儀社が新たな役割を担い始めている。本記事では、「空き家問題への対応」に詳しく、空き家再生協会代表理事を務める、オハナホーム株式会社の菊池聖雄さんに“家族に寄り添う存在”として葬儀社の空き家問題に対する向き合い方についてお話を伺った。
親世代と子ども世代の認識のズレ、 コミュニケーション不足が空き家を生む
現在、日本では少子高齢化が急速に進む中で、空き家問題がますます深刻化しています。空き家問題の背景には、少子高齢化だけでなく、核家族化や都市と地方の二極化といった社会構造の変化が大きく影響しています。 近年、日本の居住地域は二極化が進み、新しく建てた家を重視し、地元にある実家には戻らない傾向が強く見受けられます。
空き家が放置される背景には、相続する人間と家を残す人間の間の意識のズレがあります。日本の世帯数が減少している今、本来であれば「使わない家をどうするべきか」をしっかり決めなければなりません。親世代としては「子どもに家を残したい」という想いがある一方で、子ども世代は「必要ない」、「戻るつもりはない」と考える方が多い傾向にあります。
しかし、その意見交換やすり合わせがなされないまま親が亡くなると、家が残されてしまいます。その結果、残された子どもは親の意向がわからないままでは処分するにもできず、空き家が増加しているのが現状です。
国土交通省が発表した「令和元年空き家所有者実態調査 集計結果」によると、空き家を所有している理由として最も多かったのは「物置として使っているから」という回答でした。実態として「家をどうするか話し合えていないから」、「処分する決断ができないから」といった理由が大半です。
家族間のコミニケーション不足により、遺品を片付けられない、何が大事なものかわからないため、物置化してしまっているのが現状です。
空き家問題においては、親世代と子ども世代の間で共通認識を作ることが非常に大切です。
空き家問題が葬儀社にとって “信頼をつくる入口”に
空き家問題は、「人生の終わり方」や「家族の在り方」に深く関わる課題であり、葬儀社が向き合うことで大きなメリットを得られるといえるでしょう。葬儀社がエンディングノートを活用したセミナーを開催することで、顧客との信頼関係の構築が実現します。
当協会では、“家族みんなでおうちの共通認識をつくるためのノート”として「おうち終活ノート」を展開しています。おうち終活ノートを活用することで、家族が「この家をどうするか」「葬儀をどうしたいか」などを一緒に考える場を作ることにつながります。
おうち終活ノートは、今後葬儀や供養、埋葬などの希望を記載できるように改定予定です。残される大切な家の将来を話し合うことで親子の意識のズレを解消するだけでなく、同時に葬儀や供養などの「見送られ方」の希望も可視化されます。
空き家、相続、終活をテーマに定期開催することで、地域の方々が日常的に足を運ぶ場を作ることができます。例えば、実家の空き家の扱いについて悩む方への個別相談やエンディングノート記入のサポート、葬儀や埋葬の事前相談の機会を提供する場を作ることで長期的な顧客との接点が生まれます。
これらの活動を通じて、実際に空き家の売却が成立すれば、新たな収益源が誕生します。
地域密着型の葬儀社が空き家問題に関心を持ち、積極的に情報発信や相談対応を行うことで、行政や地元企業との連携が生まれやすくなり、「地域の課題解決に貢献する企業」として企業イメージの向上にもつながります。
想いを“共有”し、家族でつくる 「おうち終活ノート」の葬儀社における活用方法
おうち終活ノートは、特許庁にて実用新案登録済みです。従来のエンディングノートとは異なり、本人だけでなく、ご家族も一緒に書き進める新しい終活ノートである点が大きな特徴です。これまでのエンディングノートは、どちらかといえば「自分の想いを一方的に伝えるためのラブレター」のようなものでした。しかし、おうち終活ノートは、ご本人とご家族が「お互いの想い」を書き合いながら、将来の住まいやお墓、葬儀、空き家の扱いなどについて、意見を出し合い、最終的に共通認識をひとつの形にまとめることができるノートです。
おうち終活ノートを葬儀社が活用する際には、まず「空き家再生士」という資格を取得する必要があります。空き家再生士はお客様に寄り添う姿勢を重視した認定制度で、資格取得自体は比較的容易です。
空き家再生士の資格を取得いただくとおうち終活ノートが購入できるようになり、これを活用して空き家問題をベースにしたセミナーや勉強会を開催することが可能になります。セミナーや勉強会を葬儀社自身で開催していただく他に、当協会のメンバーが足を運んで直接お客様に説明を差し上げることもできます。
新潟市のラポート十日町様では、「空き家とおうち終活セミナー」に当協会が講師として参加し、「おうち終活ノート」を紹介・配布しました。他にも葬儀社はもちろん、お寺での開催実績もあり非常に好評です。空き家問題に取り組むことで「生前からご家族との信頼を築く存在」きっかけとなれば幸いです。
新潟市のラポート十日町で行われた終活セミナーの様子