注目の葬儀社に学ぶ! 葬儀社の新規事業・異業種参入事例を大解剖!

葬儀業界は、少子高齢化による人口減少や、葬儀様式や価値観の多様化などを背景に、大変革期を迎えている。参列者の多い大きな葬儀は激減し、家族葬がスタンダードになったことで、葬儀の単価は大幅に下落している。死亡者数は2040年まで増加予測であるものの、葬儀の簡素化の進行や物価高の影響などを考えれば、これまで通りの運営では、葬儀社が立ち行かなくなる可能性もあるのではないだろうか。
葬儀社が生き残っていくために取り組むべきは「コスト削減」である。そう断言するのは、千葉県で葬祭業を営む株式会社穴太ホールディングス代表取締役の戸波氏だ。戸波氏の祖母が千葉県君津市で葬儀社を創業してから35年、葬祭業にとどまらず、様々な事業展開を行っている同社に、縮小するマーケットで生き残るための秘訣を伺った。
経営が悪化した葬儀社の経営権を引き継いだ
穴太(あのう)ホールディングスは、葬祭業をてがける株式会社十全社から始まりました。十全社は現在、千葉県内で7つの葬儀会館を展開しており、十全社の会員制度「鞠古まりこの会」は15,000 を超える世帯にご入会いただいており、葬儀の他に、返礼品・仏壇仏具の販売、法事法要なども行っています。その後、ホールディングス化し、葬祭業以外の事業をてがけるようになりました。
私は、1994 年に祖母が設立した十全社に入社し、1998 年には代表取締役に就任しました。祖母は私が入社する前年に、当時の売上の倍以上の資金を借り入れ、千葉県君津市に初めてのセレモニーホールを建てたのです。当時は、自宅やお寺での葬儀が一般的で、地方ではセレモニーホールでの葬儀はまだ浸透していませんでした。
私の祖母は、先見の明があり、いち早く時代の流れを読んで判断したことは間違いないのですが、千葉の南房総では都市部と比べて時期尚早だったのでしょう。葬儀会館の利用者は増えず、会社の資金繰りは急速に悪化していました。
経営権を引き継いでから、まず着手したのはコスト削減です。役員報酬を大幅に引き下げ、社長室や役員室をなくし、事務スペース、葬儀用品などの在庫スペースを拡大し業務効率を高めました。そして、社員の意識改革にも取り組みました。
並行して、出店戦略においてもこれまでのやり方を見直しました。葬儀会館をさらに増やしていくためには、土地から購入するのではなく、借地に建物を立てることで投資額と借入金をかなり抑えることができることに気づきました。
このとき役立ったのが、決算書を読み解く力です。経営に携わるようになってから、決算書の見方を猛勉強しました。それによって、経営改善に向けたポイントを見極めることができるようになりました。
弊社では、社員全員が決算書を閲覧できる環境を構築しています。もちろん役員報酬や経費なども社員が把握しており、そのおかげで経費削減を命じなくとも、社員自身が節約を意識して動くことができます。
外注費削減に取り組んだ結果、生花や仕出し弁当を内製化

事業からキャッシュを多く生み出すためには利益率を改善することが重要であり、それには経費削減が不可欠です。そこで私は、外注費に着目しました。葬祭業においては、生花は花屋へ、通夜振る舞いや精進落としの食事は料理店に外注することが一般的ですが、これらを内製化するためにまず生花業へ参入し子会社を作りました。続いて、仕出し業に参入したのです。
これらを実現するために、私自身が生花市場の開拓や、食品衛生責任者の取得、寿司屋で修行もしました。自ら習得することは、従業員への説得力を高めることにもつながります。弊社では、子会社の社長も役職者も、プレイングマネージャーであることを前提としています。
徹底した外注費の削減が、事業の多角化につながり、近年は「農業」にも注力しています。自分たちで作ったお米を返礼品として販売したり、米作りの過程で生まれるぬかや、籾殻など様々なものを有効活用するなど、サステナブルなビジネスモデルが生まれたのです。
変化することが当たり前、環境変化に適合することが「負けない経営」に
十全社の3年連続のスローガンは「さすが十全社と言われる接客」です。サービスにおいて重要なことは「相手の立場に立つこと」であり、相手によって接客を変化させ、その時々にベストな対応を行うことが重要であると考えています。
私の5代前は、穴太頭戸波家といい、江戸時代、本所に屋敷を構えるほど栄えた石屋でした。ところが世の中の流れが急速に変化し、明治維新が起こり、屋敷だけでなく事業や土地もなくして一気に没落した過去があります。世の中の流れによって業績が急変することは常にあり得ることだ、という意識を持っていたため、変化しなければ生き残ることは難しいという危機感を常に持っています。
葬祭業の常識の枠に収まっていようとすることは、淘汰を待つことと同じです。経営において「変化することが当たり前」という意識を持って、祖業に囚われることなく柔軟にやってきたからこそ、今があると考えています。

著書『葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた』では、本インタビュー内容について、さらに詳しく紹介されています。
プロフィール
株式会社穴太ホールディングス 代表取締役
戸波 亮 氏
1969年生まれ。1994年、祖母が設立した葬儀会社「株式会社十全社」に入社し、1998年に代表取締役に就任。その後、生花販売や料理販売、米販売など次々と事業を展開。2019年には穴太ホールディングスを設立。