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【世界の葬祭文化27】海を渡る日本の遺品整理 ~“もったいない”が供養の世界基準に!?~

【世界の葬祭文化27】海を渡る日本の遺品整理 ~“もったいない”が供養の世界基準に!?~

あなたなら故人が大切にしていた品々をどう整理しますか? 高齢化が進むにつれて、遺品整理は誰もが直面する課題となっています。日本では最近、遺品整理士を主人公にしたドラマも放送され、このサービスへの関心が高まっていますが、海外では遺品整理をどのように捉えているのでしょうか。実は宗教観や文化的背景によって、遺品整理に対するアプローチは大きく異なります。今回は世界の遺品整理事情の最新事情をお届けします。

アメリカでは自宅が即売会場に変身!?

アメリカ エステートセール イメージ

アメリカを舞台にした映画で「For Sale(売り出し中)」と書かれた看板が出ている家を見たことはありませんか? アメリカでは、人が亡くなると「エステートセール」という独特の遺品整理が行われます。これは故人の自宅で家財道具すべてをオープン販売する、実にダイナミックな方法です。相続人が必要なものを選んだら、残りは家も含めて全部売却。ビンテージ食器からアンティーク家具まで、掘り出し物を求めるコレクターや古物商が殺到し、豊富な資産がある家のエステートセールでは、近辺の道路で交通渋滞が起きるほどです。

アメリカでは、なぜこんな方法が一般的なのでしょうか。その理由の一つは、アメリカでは家具付き賃貸住宅が主流で、不動産の明け渡しに関する法律も厳格なため、スピーディーな処分が求められること。もう一つは、ヤードセールやガレージセールといった家屋の庭を使った個人売買の文化が根付いており、中古品を売買することに対する人々の抵抗感が少ないことです。

専門業者は値札付けから広告、販売の運営管理まで一手に引き受け、売上の何割かを報酬として受け取ります。悲しみの中にいる遺族にとって、プロに任せられるこのシステムは合理的で、ビジネスとしても成り立っているのです。また、存命中でも老人ホームへの入居などで家財を処分したい時に、このエステートセールを利用することもできます。つまり、生前整理の手段としても機能しているわけです。

供養するか、しないか。それが違いだ!

古い懐中時計 イメージ

形見分けをして、売れるものは売って処分する。これは日本でも一般的な遺品整理の方法ですが、日本とアメリカとでは根本的な違いがあります。それは供養するか、しないか、です。

神道や仏教の影響を受けた日本では、あらゆるものに魂が宿るという考えがあります。だから故人の愛用品を処分する際も、仏壇や神棚と同じように丁寧に供養するか、専門業者に依頼して心を込めた仕分作業をします。遺品は単なる「モノ」ではなく、故人の魂がこもった大切な存在なのです。

一方、アメリカのキリスト教文化では、死は生からの断絶であり、モノに魂が宿るという発想がありません。遺品はは、あくまで「モノ」。だからこそ、遺品をビジネスライクに現金化することに心理的抵抗が少ないのでしょう。

ただし、アメリカにも形見分けの習慣はあります。例えば、祖母から母へ、母から娘へと代々受け継がれる指輪やネックレスなどのジュエリー。男性の場合も高級な腕時計、懐中時計などは親世代から受け継ぐ大事な形見としてみなされます。

イギリスはチャリティー、中国は副葬品文化

遺品整理の方法は国によって本当に多様です。イギリスでは、遺品整理で出た品物をチャリティーショップに寄付するのが一般的な習慣になっています。これにより再利用が促進され、社会貢献にもつながります。環境への配慮と助け合いの精神が根付いているイギリスらしい方法といえるでしょう。

また、中国では伝統的に、故人が身につけていたものを葬儀の際に一緒に燃やす習慣があります。「あの世で使ってください」という意味で故人に届けるためです。現代の中国でも、地方ではこうした昔ながらの習慣がまだ残っているところがあるようですが、人口が集まる都市部では大きく事情が変わり、日本によく似た遺品整理サービスも登場。文化的な変化が急速に広がっています。

ちなみに、古代中国では、生きている人間を死者と共に葬る「殉葬」が行われていましたが、次第に廃れ、代わりに兵士や馬をかたどった人形が作られるようになりました。秦の始皇帝陵で発見された約8000体もの兵馬俑は、その壮大な例です。一体一体、顔が違うほど精巧に作られた兵士たちは、始皇帝を来世で守る軍隊。生前の生活すべてを来世に持って行こうとした、スケールの大きな発想ですね。

日本発エステートセールが世界の高齢者を元気にする

遺品整理 着物の整理 イメージ

「アメリカのエステートセールは合理的だけど、日本には馴染まないのでは?」。そう思う人は多いでしょう。ところが最近はこの文化が少しずつ広がりを見せています。

一般社団法人生前整理普及協会が提供する「エステートセールサービス」は、アメリカの手法を日本の文化に適応させたものです。同協会の代表者は、遺品整理の現場で遺族同士の争いや後悔をたびたび目の当たりにしたことをきっかけに、2013年にこの協会を設立しました。

日本版エステートセールの特徴は、単に物を売るだけでなく、「所有者のストーリー」も一緒に伝えるという点です。明治・大正・昭和の陶器や人形、着物といった日本の文化に込められた想いや価値をていねいに説明し、国内だけでなく世界中の人たちへ届ける活動を行っています。日本にもエステートセールが定着すれば、自分(あるいは家族)の想いをしっかり理解した人の手に遺品が受け継がれることで、後悔のない遺品整理が可能になる――。

それが高齢者の励ましになり、地域の活性化にもつながるのではないかというのが、この活動の趣旨になっています。

同協会では現在、エステートセラーの養成に力を入れており、3年後に1000人、10年後に1万人を目指しているといいます。日本初のエステートセール専用ECシステムの開発も進んでおり、世界中へ販売できる仕組みを構築中とのこと。新しい生前整理の文化として日本に根付く日も、そう遠くないかもしれません。

東南アジアで大人気! 日本の遺品が世界を旅する

東南アジア国旗 イメージ

「これ、もう売れないから捨てるしかないかな……」。日本では不要品扱いされそうな遺品が、実は海外で大人気だとしたらどうでしょう? 日本では、ブランド品以外の遺品はほとんどリユースされることなく廃棄されるのが現状です。まだ十分使えるのに、リサイクルショップで買い取りを断られた経験がある方も多いのではないでしょうか。ところが、フィリピン、ミャンマー、カンボジアなど東南アジアの国々では、こうした「日本の中古品」が飛ぶように売れているのです。

「ジャパン・オークション」と呼ばれる大規模な競り市では、日本から運ばれた遺品が次々と取引されます。特に人気があるのは、日本ではほとんど需要のなくなった大きなタンスや食器棚です。こうした品々が多くの場合、各国の中間層から富裕層の間で目玉商品となり、高値で売れるのです。

家電も意外な人気商品です。「型落ち」となって日本国内では値が付かないテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などは、製造から10年以上経過した品物でもよく売れます。グラスや陶器のお皿、鍋やフライパンといったキッチン用品も需要大。日本では見知らぬ誰かが使った中古品は敬遠されがちですが、海外では「品質が高くデザインも良い日本製」として価値を認められています。

さらに驚くのは、ぬいぐるみや人形まで大人気だということ。日本では「前の持ち主の魂がこもっている」と敬遠されがちなアイテムですが、東南アジアのマーケットではそんな心配は無用のようです。日本では通常、新品ほど価値が高く、使えば使うほど価値が下がりますが、海外ではブランド品に限らず、使い込むほど価値が上がる場合もあります。新品では出せない味わいを「価値」と認識できる市場があり、それが取引金額にも反映されるのです。

日本の“もったいない”精神が世界基準になる日

遺品整理 イメージ

遺品整理で出てきた不要品を海外へ輸出する取り組みは、単なるビジネス以上の意味を持っていると言えるでしょう。

まず、遺族が支払う処分費用が大幅に削減できます。陶器やグラスは重量が重く、リサイクルも難しいため、日本では廃棄コストが高くつく厄介者です。それが価値ある商品として売れるなら、遺族にとってこれほど助かることはありません。

次に環境への貢献もポイントです。ゴミを減らし、一部で横行している不法投棄の抑制にもつながります。地球規模で考えれば、まだ使える物を捨てずに次の持ち主に届けることは、持続可能な社会づくりの一環です。

そして何より、故人が大切にしていた品々が新たな価値を持ち、誰かの役に立ったり、心を満たしたりするとしたら、遺族の心の負担も少し軽くなるのではないでしょうか。「捨てるしかない」ではなく「誰かが喜んで使ってくれる」。日本人が古くから大切にしてきた、物を大切にし、最後まで使い切ろうとする「もったいない」精神。それが今、国境を越えて世界中で実践され始めています。日本の遺品整理が、グローバルなリユース文化の先駆けになる可能性を秘めているのです。

遺品整理は物語を紡ぐ仕事

リユース イメージ

以前にご紹介した、ガーナのファンタジー棺が故人の人生を芸術的に表現するように、遺品整理もまた、故人の物語を次の世代へ受け継ぐ営みです。アメリカのエステートセールは効率的で合理的。イギリスのチャリティー寄付は社会的。中国の副葬品文化は精神的。そして日本は「供養」の心を大切にしながら、新しいグローバルなリユースの形を模索している。

こうして、それぞれの国の価値観が、遺品整理のスタイルに色濃く反映されているのが興味深いですね。

これからの遺品整理は、ただ物を処分するだけでなく、故人の想いを受け継ぎ、環境に配慮し、新たな価値を創造する総合的なサービスへと進化していくでしょう。日本発のエステートセールが文化として根付き、東南アジアでのリユースがさらに拡大し、世界中で「日本の遺品整理スタイル」が注目される日が来るかもしれません。

高齢化社会は世界共通の課題です。だからこそ、遺品整理という誰もが向き合うテーマについて、国境を越えて学び合い、より良い方法を見つけていくことが大切なのではないでしょうか。あなたも、いつか訪れるその日のために、生前整理について考えてみませんか? それは同時に、「自分らしく生きる」ことについて考える、貴重な機会になるかもしれません。

〈参考資料・サイト〉

●世界の遺品整理事情・アメリカと中国は遺品をどう整理している?

ポータルあいち:一般社団法人生前整理普及協会 生前整理エステートセールサービス

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