葬儀を知る 2025.05.29

経帷子（きょうかたびら）とは？故人への着せ方もあわせて解説

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葬儀で使用する着物の一つに「経帷子」がありますが、具体的にどのようなものか知らない人も少なくはないでしょう。経帷子は、葬儀で故人を見送るにあたって重要な役割がある着物です。本記事では、経帷子とは何かを解説するとともに、着せ方や作り方についても紹介します。

経帷子とは
経帷子の種類は二つ
経帷子の作り方
経帷子の着せ方
経帷子・死装束に関する注意点
経帷子の正しい知識を知って、故人を丁寧に見送りましょう

経帷子とは

仏式の葬儀にて、故人の身支度をする上で重要な意味を持つ経帷子ですが、そもそも経帷子とは何なのでしょうか。まずは経帷子について、役割や意味を解説します。

葬儀において故人が着用する死装束

経帷子とは、仏式の葬儀で故人が着用する白い着物であり、一般的に「死装束」と呼ばれるものです。単衣で仕立てた着物を帷子（かたびら）と呼び、そのうち生地にお経が書かれているものを経帷子と呼びます。昔は故人の家族による手作りの経帷子を着せていましたが、近年は葬儀社が準備や着付けを行うことが一般的です。

故人が経帷子を着用するのは、故人に対する家族の願いを込めるためとされています。仏教において、故人は仏がいる極楽浄土へ旅立つとされており、旅装備の一つとして経帷子を着せることで「故人が無事に極楽浄土へ行けますように」という願いを込めていました。

なお、経帷子が白色であるのも、仏教において何色にも染まっていない清浄な色と考えられているためです。ほかにも、白には「死」という意味もあることから、故人の装いにふさわしいという考え方もあります。

本来は修行僧が着用する着物

故人の死装束として使われている経帷子ですが、本来は平安時代に修行僧が着用していた着物でした。しかし、故人が極楽浄土へ旅立つ際に、煩悩を捨ててまっさらな気持ちで旅に出られるようにという理由で、修行僧の着物である経帷子が死装束として着用されるようになったとされています。

経帷子の種類は二つ

仏式の葬儀で使われる経帷子といっても、宗派によって使われるデザインが少しずつ違うため、故人の宗派に合わせたものを使うことが大切です。ここからは、経帷子の種類にはどのようなものがあるか解説します。

白無地の経帷子

白無地の経帷子は、背中側に朱印や文字などが描かれていない着物を指します。仏式の葬儀において、葬儀社が経帷子を準備する場合に白無地のものが使われることが一般的です。

巡礼の朱印が付いた経帷子

巡礼の朱印が付いた経帷子とは、真言宗の信者が着用するものです。背中には弘法大師が開いた霊場である四国八十八箇所の霊場や、観音菩薩を祀る西国三十三所の霊場を巡礼した際にいただく御朱印が押されています。

真言宗では生前に各地の霊場を巡礼し、御朱印を集めることで、死後に着用する装いの準備をする人も少なくありません。

なお、四国八十八箇所の霊場を巡礼した場合には、御朱印とともに「南無大師遍照金剛」という文字を書き入れることもあります。「真言宗の開祖である弘法大師を信じて従う」という意味の文字で、真言宗では勤行のときに唱えるものです。

経帷子の作り方

近年の仏式の葬儀では、経帷子を葬儀社が用意することが一般的ですが、中には古くからの見送り方に従い、家族で作った経帷子で故人を見送る場合もあります。しかし、一般的な着物とは異なり、経帷子を作る際は正しい作法に基づくことが大切です。ここからは、経帷子の作り方について解説します。

複数人で分担して作る

経帷子の作り方は、複数人で分担して作ります。古くから、故人の親族の女性が仕立てるのが一般的ですが、故人とゆかりのある縁者や孫なども集まって作ることもあるとされています。

白の薄い生地にお経や題目の文字を書く

白の薄い生地にお経や題目の文字を書くのも、経帷子の作り方としてあげられます。経帷子に使われる生地には、白麻や白木綿などが使われていましたが、近年はポリエステル素材が用いられることが一般的です。

経帷子の背面には、お経や題目を書き入れます。宗派によっては、仏や菩薩の名前にあたる名号や、巡礼時の御朱印なども一緒に書き入れることもあります。

ハサミ・ものさしを使わず手で布を裂く

経帷子を作る際にはハサミやものさしを使わず、生地を切るときには手で裂くことも作り方の作法です。一般的にハサミは刃物で「縁を切ること」を連想させるため、経帷子を作る際は縁起を担ぐために避けるべきとされてきました。

ものさしについても「物を刺す」ことを連想させるため、ハサミと同様に使うのを避けるとされています。

玉止め・返し縫いをしない

経帷子の作り方では、玉止めや返し縫いをしないことも特徴です。玉止めは、裁縫において縫った糸が抜けないようにするためのものですが、糸尻を生地に結び留めることが執着を連想させるとされています。故人がこの世への未練なく旅立てるように、経帷子を作る際には玉止めをしないのが一般的な作法です。

糸尻を固定しない代わりに、経帷子を作る際にはひっぱり縫いという、縫う人が寄り合ってひっぱり合うようにして縫う方法で作られます。

返し縫いについても、ひと針ごとに後ろへ返しながら縫う点が、故人がこの世に引き返してしまうことを連想させることから、経帷子の作り方では採用されません。ほかにも、不幸が繰り返される、故人の眠りを妨げるといった考え方から忌避されていることもあります。

経帷子の着せ方

経帷子は死装束の一つだからこそ、着せ方も一般的な着物とは少し異なります。ここからは、経帷子の着せ方をポイントに絞って解説します。

一般的には襟を左前に合わせる

通常の着物の着せ方では襟を右前にしますが、経帷子の場合は一般的に襟を左前に合わせるのが正しい着せ方です。通常とは反対の着せ方をする理由には諸説あり、中でも「あの世とこの世ではあらゆることが真逆になっている」という考え方があるためです。

ほかにも、お釈迦様が亡くなった際の着物の襟が左前だった、かつて高貴な人が着物を左前で着用していたなどの理由から、故人を高貴な人として弔うために襟を左前にするとされています。

帯は縦結びで結ぶ

経帷子の着せ方では、帯は縦結びにするのが作法です。通常の着物の帯は両端が結び目の左右に出るように結びますが、経帷子では結んだ帯の両端が結び目の上下にくるように結びます。結び方を変えるのは、生と死を区別するための習わしである「逆さごと」の一つだからです。

また、経帷子の帯を結ぶ際には結び切りになるようにしましょう。帯を結び切り固く結ぶのには、故人が極楽浄土への旅の間に帯がほどけてしまわないようにという意味があるとされています。

その他装飾品・小物を身に付ける

経帷子を着せる際には、故人が極楽浄土までの旅路で困らないように、着物の上から装飾品や小物を身に付けるのが一般的です。装飾品には旅立つ故人が煩悩に負けないための支えとしての役割があります。装飾品の例には以下のようなものがあり、それぞれ身に付ける意味が異なります。

経帷子を着せるときの装飾品・小物一覧（一例）
装飾品の名称	身に付ける意味
笠	極楽浄土への旅路で、雨や日差しから故人を守るため。
白足袋・草履	故人が無事に極楽浄土まで歩けるようにするため。
頭陀袋	お金を入れる袋。三途の川を渡るための六文銭を入れるため。
三角頭巾	三角形の布で「天冠」とも呼ばれる。魔除けや死者の罪を消すためのもの。
手甲・脚絆	旅路で身体を守るための装備。手甲は腕や手首、脚絆は足を保護するもの。
数珠	故人が功徳を得られるように持たせる。
杖	旅の途中で故人が倒れないための支えとして持たせる。