【ひとたび編集部が選ぶシニアが活躍する映画10選06】運び屋〜人生で大切にすべき2つのこと〜

ひとたびの「シニアが活躍する映画10選」では、シニア世代が主役として活躍する映画を紹介します。今回は、伝説の麻薬の運び屋がなんと90歳のドライバーだったという驚愕の事実を映画化した話です。90歳にしてなぜ麻薬の運び屋になったのか、如何に麻薬取締局の目を欺きながら運ぶのかといったサスペンス要素を含みつつ、軽妙なロードムービーとしても楽しめる映画です。
第6回は「運び屋」です。
こちらは2018年に公開された作品で、主演と監督を務めるのは、ハリウッドで最も尊敬されている俳優であり、映画監督しても巨匠として知られるクリント・イーストウッドです。俳優としての代表作には「夕日のガンマン」や「ダーティーハリー」などがあります。また、映画監督としては「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞するなど、多くの成功を収めてきました。
「運び屋」でイーストウッドを支えるのは、「アメリカン・スナイパー」のブラッドリー・クーパー、「マトリックス」のローレンス・フィッシュバーン、「アントマン」のマイケル・ペーニャ、「オーシャンズ11」のアンディ・ガルシアといった超豪華キャストです。さらには、娘役に実の娘であるアリソン・イーストウッドを起用しています。
誰もが知る名優たちが勢揃いの本作はアメリカでも絶賛され、興行収入1億ドル突破という大ヒットを記録しました。
ダメ男だけど、誰からも愛されるチャーミングな運び屋に誰もが魅了されるでしょう。そんな作品を今回は紹介したいと思います。
あらすじ
園芸家のアールは、育てた花が品評会で優勝するほどの腕前でした。とある品評会の開催日に娘であるアイリスの結婚式がありましたが、家族よりも仕事を優先してしまいます。その日以来、妻や娘との関係は最悪なものとなってしまいました。
それから時が経ってインターネット通販の時代になり、アールはデジタルについていけずに農園を畳むことになります。仕事がなくなり暇になったため、孫のジニーの婚約パーティーに顔を出すことにしました。ジニーは大喜びしましたが、アイリスと元妻のメアリーは激怒してしまったのです。
居場所をなくしたアールが車に戻ると、パーティーの参加者からドライバーを探してる友人がいると仕事を紹介されます。紹介された仕事は報酬が高いのですが、質問をしないことが条件でした。何も考えずに仕事を引き受けたアールは怪しいメキシコ人からバッグを渡され、指定された場所まで車を運転して休憩に入ります。休憩から戻ると、バッグがない代わりに大金が用意されていました。
そのお金でジニーの結婚式の資金を出したり、車を新車の黒いピックアップに替えたりしました。味をしめたアールは、その後も何度も依頼を引き受けました。積荷が実は麻薬だったと分かっても、気にする素振りすら見せません。アールは仕事ぶりが評価され、麻薬カルテルのボスから一番使える運び屋として家に招き入れられパーティーを楽しみます。そしてアールは、稼いだ大金をジニーの学費に充てるなどして家族との関係修復を試みました。
そんなとき、麻薬取締局は運び屋の存在に気づきました。優秀な捜査官コリンはアールの足取りを追い、黒いピックアップに乗っているという情報を入手したのです。そしてついにコリンは、運び屋が泊まっているホテルの情報を得ました。怪しそうな強面男を無理やり逮捕しましたが運び屋ではなく、捜査は空振りに終わってしまいます。
翌朝コリンがダイナーで休んでいると、後からアールが入店しました。コリンは妻との記念日を忘れていたことに気付き、アールから「家族が一番だ。仕事は2番目でよい。俺みたいになるな」と忠告されます。
同じ頃、麻薬カルテルのボスが右腕に殺害され、運び屋のルールは大きく変わります。今までの様な気ままなドライブではなく、全て指示に従う様に強く言われます。そして、ボスが変わって最初の仕事の最中に、アールは元妻のメアリーが倒れたことを知りました。指示に従わないとどうなるか理解しながらも、メアリーに寄り添うために病院に向かいます。
結局メアリーが息を引きとるときも側に付き添い、葬式にも出席しました。その姿を見たアイリスは、家族が集まる感謝祭に来てくれないかとお願いします。アールは快諾しました。その後アールはすぐに目的地に向かいますが、コリンの捜査網が近づいてきました。大捜索の末、アールは捕まってしまいます。
アールは裁判で全ての罪を認め、刑務所に収監されることになりました。アイリスは「できるだけ会いに行く」と見送り、アールは満足そうでした。刑務所では趣味の園芸を楽しむアールが写し出され、そこで映画は終わります。
みどころ
気付くのに遅いことはない
この映画は「家族の大切さ」がテーマであるといえるでしょう。コリン捜査官と会話するダイナーでも諭すように「家族が一番だ。仕事なんか2番目でよい」とアールは言っています。それはアール自身が家族との時間を蔑ろにして仕事を優先した結果、仕事も家族も失ったことを後悔していることの表れでしょう。若い頃から花に人生をかけたため親族全員の期待を裏切り、唯一孫が話しかけてくれるだけの厄介者扱いされてきました。
しかし、仕事を失ってしまったとき、何一つ残らなかったことをキッカケに家族の大切さに気づいたのです。元妻や娘に鬱陶しがられても、今までの時間を埋め合わせるように会う頻度を増やして、最終的には仕事よりも家族を大事にするようになりました。アールは90歳になって、はじめて家族との時間を楽しんだのです。彼が変わったことで周りの壁も徐々に薄れていき、最後は受け入れてもらえました。
自分が何かできていないと思ったとき、その「気付き」を大切にするべきです。その気付きが自分を変えるチャンスで、周りからの見方も変えられるキッカケになりえます。それが結果として、後悔の気持ちを喜びに変えてくれる人生のスパイスなのかもしれません。
好きなことをする
アールの信条は、まさに「好きなことをする」です。誰に何を言われても周りを全く気にせずに、自分の好きなことをしたいときにしてきました。そのスタンスのせいで家族は離れてしまいましたが、友人たちはそんなアールを好きでいました。
それが顕著なのが、アールを監視するギャングのフリオに勝手にルートを変えないよう銃で脅されても、怯えることなくたびたび好き放題しています。さらには、ルートから外れてポークサンドを食べに行くこともありました。「なんでこんなところに?」とフリオは機嫌を悪くしますが、ポークサンドを食べて理解しました。「世界一のポークサンドを食べに来た」とアールは説明し、これを機にフリオもアールに心を開いていきます。
アールのこれらの生き方は、忙しい現代に向けたクリント・イーストウッドからのメッセージです。仕事に飲み込まれたり発言一つで世間を気にしたりと疲れてしまう今だからこそ、「誰かの目を気にしても人生は楽しくない。自分がしたいことをしたいときにしなさい!」とアールを通じて訴えかけられる気がします。多くの経験をしてきたであろう87歳のイーストウッドが言うからこそ、より説得力のある力強いメッセージになっています。
ただし、好きなことをしすぎた結果、親族からそっぽを向かれたことも忘れてはいけません。「家族を大切にしなさい」「好きなことをしなさい」という2つを上手い具合に自分に落とし込めたら、きっと周りの誰よりも人生を楽しめることでしょう。
豪華キャストの共演
映画好きであれば、誰もが「これだけのメンバーをよく集めたな」という印象を持つ程の豪華メンバーが集結した作品です。マイケル・ペーニャやアンディ・ガルシアがただの脇役でしかなく、これだけの芸達者な役者にほとんど台詞もない役をよくオファーしたなと感じるほどです。
それがクリント・イーストウッドの凄いところで、実力派揃いの製作陣とキャストが手を組めば、スリルとチャーミングが上手く合わさった作品が作れるのです。
まとめ
本作はハリウッド随一の才能を持った俳優が作り上げた、ロードムービーの傑作です。90年生きた結果、後世に残したいメッセージとしてクリント・イーストウッドが選んだのは「家族を一番にすること」「好きなことをすること」の2つです。
普遍的なメッセージですが、熟練の技術で説教臭さを一切感じさせず、上手く映画の中で伝えられていると思います。「今からでも遅くない。人は何歳からでもやり直せる」と強く思える素敵な作品です。きっとやり直したいと思えるものが見つかることでしょう。
公開年 |
2018年 |
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監督 |
クリント・イーストウッド |
キャスト |
クリント・イーストウッド ブラッドリー・クーパー ローレンス・フィッシュバーン マイケル・ペーニャ アンディ・ガルシア アリソン・イーストウッド |