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葬儀のあと

孤独死の部屋は特殊清掃後に本当に安全なのか|再入居前に確認すべき判断基準

孤独死の部屋は特殊清掃後に本当に安全なのか|再入居前に確認すべき判断基準

この記事は、特殊清掃・遺品整理のプロフェッショナル、ブルークリーン株式会社 代表取締役・藤田隆次が監修・執筆しています。孤独死・事件現場の特殊清掃を専門とする国際資格「バイオリカバリー技術者」(米国バイオリカバリー協会認定)を持つ、日本人で唯一の有資格者です。

「孤独死があった部屋を特殊清掃したが、入居者を入れて問題ないのか」「また誰かに貸すのは、少し気が引ける」。大家や管理会社の方から、こうした声をよく聞きます。ご遺族にとっても、「この部屋にまた住んでよいのか」「売っても大丈夫なのか」という不安は変わりません。
部屋で孤独死が起きると、特殊清掃から原状回復工事まで終えても、本当に安全なのかを見極めるのは簡単ではありません。元通りになったように見えても、時間が経つと、うっすら腐敗臭が漂う。そうしたことも起こり得ます。
では、どのような状態であれば「安全に戻った」と言えるのか。建材の奥まで臭いと向き合ってきた立場から、その判断基準を整理します。

なぜ「見た目のきれいさ」では判断できないのか

孤独死が起きた部屋にまた住めるか「見た目のきれいさ」で判断できない理由

まず知っておきたいのは、「きれいになった」と「安全である」は、まったく別の問題だということです。

見た目はきれいになる

孤独死が起きた部屋では、通常、天井から床まで壁紙クロスや床材を新しく交換します。水回りも強化清掃を行うことで、新築に近い状態まで仕上がることも少なくありません。見た目だけなら、そこで何が起きたのか分からないほど回復します。

ただし、見えるのはあくまで表面です。居室の体液が床を貫通していた場合、マンションであればコンクリートのスラブまで、木造アパートであれば下地の木材まで、原因が処理されたかどうかは、表面からは分かりません。もし奥に原因が残っていれば、時間の経過とともに臭いが戻り、害虫が発生する可能性も否定できません。表面の美しさは、内部の安全を保証しないのです。 

安全であるとは、別の基準

一方、「安全である」とは、目に見えない部分にまで原因が残っていない状態を指します。孤独死の臭いが建材の奥へ浸透し、消したはずでも再び戻ってくる仕組みは、「孤独死の臭いはなぜ消えないのか」で詳しくお伝えしました。臭いの正体である小さな分子が素材の内部にとどまっている限り、表面をどれだけきれいにしても、そこから再び臭いが立ち上がってきます。

つまり、安全かどうかは「見た目」ではなく、「どこまで原因を取り除けたか」で決まります。そしてそれは、見ただけでは判断できません。だからこそ、きれいに見える部屋であっても、安全であることを別の方法で確かめる必要があります。では、そもそも「安全に戻った」とは、具体的にどのような状態を指すのか。次に整理します。

「安全に戻った」とはどういう状態か

孤独死が起きた部屋が「安全に戻った」と判断できる条件

「安全に戻った」かどうかは、感覚だけで判断するのは難しいものです。そこで、臭気・衛生・構造という3つの軸に分けて確かめると、見極めがしやすくなります。

臭気:時間と季節を経ても戻らないか

臭いは、気温が高いほど強く感じられやすくなります。臭いの正体である分子は、温度が上がると動きが活発になり、空気中に出やすくなるためです。湿度もまた、感じ方に影響することが、室内環境と臭気に関する研究でも示されています。

つまり、清掃直後の涼しい時期に臭いがしないからといって、安全とは限りません。ひとつの目安になるのが、高温多湿の夏です。気温と湿度がもっとも上がるこの季節を越えても臭いが戻ってこなければ、発生源はおおむね取り除かれていると考えてよいでしょう。逆に、夏になって臭いがぶり返すようなら、まだどこかに原因が残っているサインです。

衛生:消毒が行われているか

私たちの身のまわりには、日常的にさまざまな微生物が存在します。孤独死をきっかけに放出された細菌やウイルスだけを取り出して計測することは、現実的ではありません。

だからこそ大切なのは、居住空間として適切に消毒・除菌の工程が行われているかどうかです。どの範囲を、どのような薬剤で消毒したのか。その工程が記録として残されていれば、目に見えない衛生面についても、確認のよりどころになります。「見えないからこそ、やったことを示せるか」が問われます。

構造:内部に原因が残っていないか

もっとも見落とされやすいのが、建物の構造そのものです。体液が床を貫通していた場合、表面の床材を新しくしても、その下の合板やコンクリート、木造の下地にまで原因が残っていることがあります。ここが処理されていなければ、いくら表面を整えても、内部から臭いは戻ってきます。浸透した範囲まで建材が処理・交換され、内部に原因が残っていない状態。これが3つ目の条件です。

これら臭気・衛生・構造の3つが満たされて、はじめて「安全に戻った」と言えます。では、目に見えないこれらの状態を、どうやって確認すればよいのか。次に、その具体的な方法を見ていきます。

見えない汚れをどう確認するのか

孤独死が起きた部屋の見えない汚れを確認する方法

目に見えない汚れは、感覚ではなく、道具と数値で確かめます。私たちが実務で用いている確認の方法を、代表的なものから紹介します。

衛生状態を数値で見る|ATP検査

もっともよく使うのが、ATPふき取り検査です。これは、食品工場や厨房の衛生管理(HACCP)でも広く使われている手法で、表面をふき取り、汚れの量を数値として測ります。生き物の細胞に含まれるATPという物質を利用し、汚れや有機物がどれだけ残っているかを、その場で数値化できます。

目視では「きれいになった」としか言えないところを、ATP検査なら数値で示せます。消毒・除菌がきちんと行き届いているかを、感覚ではなく客観的な数字で確認できる。ここが、信頼できる作業かどうかの分かれ目になります。

参考:HACCP入門のための手引書|厚生労働省

建材内部の水分を見る|含水率チェッカー

臭いの原因が建材の奥に残っていないかは、含水率チェッカーで確かめます。素材を壊さずに内部の水分量を測る機器で、いくつかの方式があります。なかには、赤外線によって水分の分布を画像として可視化できるタイプもあります。

ふだん乾いているはずの場所が、明らかに湿っている。そうした部分には、体液などが染み込んでいる可能性が高いと判断できます。表面を張り替えても、下地が湿ったままなら、そこが原因として残っているサインです。壁や床を壊さずに内部の状態を推測できるため、確認の手がかりとして有効です。

作業時の環境も手がかりになる

見落とされやすいのが、清掃作業を行ったときの気温や湿度です。孤独死が起きたときの気温や湿度が低いと、作業にあたった人が臭気を感じ取りにくく、消臭剤や薬剤を適切な量で使えていないことがあります。臭いが弱いと、必要な処理まで見誤ってしまうことがあるのです。だからこそ、涼しい時期に行った作業ほど、暖かくなってからの再確認が欠かせません。

さらに踏み込んだ計測

より専門的には、臭いの成分(VOC)そのものを分析する方法もあります。ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)という装置を使えば、どの成分がどれだけ残っているかを細かく調べられます。ただし装置が高価なため、常に使えるわけではありません。孤独死のあった部屋では、発生しやすい成分がある程度決まっているため、ガス検知管を使った簡易的な計測で代用することもあります。

こうした確認は、依頼者自身が行うものではありません。ただ、業者がこうした手段を持ち、数値と記録で状態を示せるかどうかは、依頼先を見極めるうえで大きな判断材料になります。業者選びの基準については、特殊清掃の相見積もりで「同じ条件なのに3倍の差」が生まれる理由もあわせて参考にしてください。

再入居・再募集の前に確認すべきこと

孤独死が起きた部屋への再入居・再募集の前に確認すべきこと

ここまでの確認は、専門の機器や知識を要するものでした。とはいえ、依頼した側にもできる見極めがあります。また自分が住む場合も、次の入居者を迎える場合も、引き渡しの前に押さえておきたい点を整理します。

報告書は「工程」が写真付きで示されているか

まず確認したいのが、作業報告書の中身です。信頼できる報告書には、作業前後の写真、実施した工程、各種の測定値が記載されています。ガスクロマトグラフや空気質の測定を行った場合は、その結果も報告されます。

ここで見落としてはならないのが、ビフォーアフターの写真だけでは意義が乏しいということです。大切なのは、どのような工程を、どの順序で行ったのかが、写真付きのプロセスとして示されているかどうかです。仕上がりの見た目だけでなく、途中で何をしたかが記録されていてこそ、内部まで適切に処理されたと確認できます。

「終わった時点で安全」と「安全が続く」は別

適切に処理されていれば、作業が終わった時点では安全な状態に戻っています。これは報告内容で確認できます。

ただし、その状態がこの先も続くかどうかは、別の問題です。すでに述べたとおり、臭いが戻らないかを見極めるには時間が要ります。できれば1年ほど様子を見られると安心です。季節をまたぐことで、高温多湿の時期にも臭いが戻らないと確認できるからです。

時間を置いた臭いの確認と、目視のつき合わせ

再入居や再募集の前には、部屋を閉め切って時間を置いたうえで、臭いが戻らないかを確認してください。あわせて、報告書に記載された処理箇所を、実際の部屋と目視でつき合わせておくことも大切です。

より念を入れるなら、エアコンで室温を上げ、一晩そのままにしてみる方法もあります。気温が上がると臭いは出やすくなるため、原因が残っていれば気づきやすくなります。

見落とされがちなのが、部屋の外です。玄関前の共有部分に汚れが残っていることもあります。マンションであれば、パイプスペース(PS)の内部も確認しておくと安心です。臭いや汚れは、居室の中だけにとどまるとは限りません。

追加費用とリスクを、先に示せる業者か

業者を見極めるうえで、費用の説明の仕方も判断材料になります。どの範囲から追加費用がかかるのか、どういう場合に費用が変わるのかを、あらかじめ明示している業者は信頼できます。作業前の段階でリスクを予測し、できることとできないことをはっきり伝えられるかどうかが、その業者の実力を映します。

逆に警戒したいのが、マスキングに頼った消臭です。強い芳香剤などで臭いを覆い隠すだけの処理は、原因が残ったままのことが多く、時間が経てば元に戻ります。香りでごまかす対応をする業者には、注意が必要です。

確認を怠るとどうなるのか

孤独死が起きた部屋の安全確認を怠るとどうなるのか

確認を怠ると、どのような事態が起こるのか。裏側から見ておきます。

やり直しの多くは、安さを優先した依頼から起こる

再施工が必要になるのは、料金の安さを第一に業者を選んだ場合が少なくありません。安さを優先した結果、内部の原因が残ったまま引き渡され、後になって臭いが戻ってくる。適正な価格できちんと対応する業者にはじめから頼んでいれば一度で済んだものが、やり直しによって、追加の費用と、その間に部屋を使えない損失まで生んでしまいます。

問題が表に出るきっかけは、多くの場合、入居者からの申し出です。とくに、気温が上がる夏に臭いがぶり返し、そこではじめて処理が足りなかったと分かる。こうした流れは、決して珍しくありません。

やり直しは、原状回復の後だと負担が重くなる

やり直しでもっとも避けたいのは、張り替えた建材を剥がさなければ原因が分からない状況です。原状回復まで終えてしまってから再施工となれば、いったん仕上げた部分をふたたび剥がすことになり、負担は大きくなります。

ただし、汚れたものがすでに取り除かれていれば、原因の残る箇所さえ特定できたときに、清掃そのものは物理的に安く済む場合もあります。とはいえこれは、あくまで原状回復をやり直す分を別にした話です。結局のところ、内部の確認を先送りにするほど、あとの負担は重くなります。

「安物買いの銭失い」にならないために

安い料金には、それだけの理由があります。工程を省いたのか、内部まで確認していないのか、必要な建材の処理を見送ったのか。安さの裏には、どこかで手を抜いた作業が隠れています。その一つが、後日の臭いの戻りややり直しとなって表れます。まさに「安物買いの銭失い」です。目先の金額だけで選ぶと、かえって高くつきます。

とはいえ、料金が高ければ安心というわけでもありません。金額が高いだけで中身の伴わない対応もありますし、ご遺族や大家の動揺につけ込むような業者がいるのも実情です。高いか安いかという料金だけでは、良し悪しは見極められません。

大切なのは、料金の高低ではなく、工程と確認が適切に行われるかどうかです。どのように業者を見極めるかは、「同じ条件なのに3倍の差」でも整理してきました。あわせて参考にしてください。

まとめ|安全かどうかは、見た目ではなく確認で決まる

孤独死が起きた部屋が安全かどうかは、見た目ではなく確認で決まる

最後に、この記事の要点を整理します。

孤独死のあった部屋にまた住めるのか。その答えは、見た目のきれいさではなく、確認によって決まります。ポイントは3つです。

1つ目は、「きれいになった」と「安全である」は別のことだという点です。表面がどれだけ回復しても、原因が建材の奥に残っていれば、臭いは戻ってきます。

2つ目は、安全とは、臭気・衛生・構造の3つが満たされた状態だという点です。時間と季節を経ても臭いが戻らず、衛生的に消毒され、内部にまで原因が残っていない。この3つがそろって、はじめて安全に戻ったと言えます。

3つ目は、それを数値と記録で確かめられるかどうかが要になるという点です。ATP検査や含水率の測定、そして工程を写真付きで示した報告書。見た目や感覚ではなく、確認の裏づけを示せる業者を選ぶことが、遠回りのようで、もっとも確実な道になります。

もし今、孤独死のあった部屋への対応でお困りなら、状況に合わせて次の記事も参考にしてください。

臭いがなぜ消えないのか、その仕組みを知りたい:孤独死の臭いはなぜ消えないのか|床下・壁裏まで浸透する仕組み

業者をどう選べばよいか:特殊清掃の相見積もりで「同じ条件なのに3倍の差」が生まれる理由

発覚した直後に何をすべきか:孤独死は警察に連絡すべき?発覚後の初期対応と専門業者に依頼するタイミング

見えないからこそ、確かめる。その姿勢が、住まいと、そこで暮らす人を守ります。

監修者 SUPERVISOR
特殊清掃 藤田 隆次

ブルークリーン株式会社 代表取締役
1992年 東京生まれ。奄美諸島出身の父とメキシコ人の母の間に生まれる。都立雪谷高校を卒業後、IT企業(東証グロース上場企業)やリフォーム業を経て起業。米国バイオリカバリー協会から認定を受けた、日本人唯一のバイオリカバリー技術者。

[資格&修了]
・米国バイオリカバリー協会 公認バイオリカバリー技術者
・全米防疫技術研究所(NIDS)マスターズコース修了認定
・公益社団法人日本ペストコントロール協会 1級技術者

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